山口達也さんへのお手紙
2025.02.09(日)
依存症未然防止対策講演会が三重県桑名市で開催されました。
私たちは講師の山口達也さん宛てにお手紙を書き、桑名市保健福祉部さまよりお渡しいただきましたので、以下に公開させていただきます。
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<山口達也さんへのお手紙>
立春とはいえ、寒さがなかなか衰えを見せぬ毎日です。山口達也さんにはお変わりなくお過ごしでいらっしゃいますか。突然の手紙を差し上げる非礼をお許しください。わたし達は声を聴きつなぐ会といいます。主に学校の性暴力の防止やその被害者の支援などに取り組んでいる小さな会です。声を聴きつなぐ会は被害者や元教師、保護者などをメンバーとし、多くは桑名市民です。今回は、山口さんが桑名市で実施される依存症未然防止対策講演会の講師をされるということで、桑名市に質問、お願いなどをいたしましたところ、山口さんに手紙をお渡しできることになり、この手紙をお出ししました。
潜在的な患者が100万人になるというアルコール依存症の問題はとても大きな問題で、山口さんがご自身の経験からその防止についてお話しいただくことは、桑名市のアルコール依存症防止やその家族へ対応にきっと大きな力になることと存じます。このことをわたし達も信じておりますが、今回はこのこととは別のことをお願いいたします。
お願いは、性暴力の防止についての山口達也さんからの発信です。
2020年の男女共同参画局の調査では、女性の14人に一人が不同意性交などの被害を受けた経験があります。加害者は多くは、被害者と日常で関係がある人で、それだけに被害者には大きな衝撃があります。女性の被害者の6割、男性の被害者の7割以上が誰にも相談できずに、苦しみ続けています。このことは性暴力被害を受けることが“恥ずかしいこと” “被害者にも落ち度がある”等といった社会の偏見があります。さらに性暴力の被害の特徴には、被害を受けた当初は症状が出なくても、何年も経って、あるいは何十年も経ってから心身に症状が現れる場合が普通であることです。このため被害者にも周りにも性暴力とその被害が直ちに結びつきにくく、医療ケアを受けることが遅れる場合もとても多い状況もあります。実際に三重県には性暴力被害に対応できる医療機関がほとんどありません。そうした状況とともに声を上げる被害者に対して、「あなたもよろこんでいたのではないか」 「有名になってよかったじゃないか、そんなに金がほしいのか」 「そんな経験はみんなしているが、我慢している。 あなたも忘れるべきだ」などという誹謗や中傷は今も後を絶ちません。これらのことは、山口さんもご承知のことと思います。
ご存じかもしれませんが三重県の元教員が中学校の生徒へのわいせつ行為で執行猶予つきとは言え懲役刑の判決を受けています。また桑名市でも自分が運営する施設の十代女性への強制性交等致傷罪で63歳の男が逮捕されました。さらに三重県職員が女児にわいせつ行為をしたことで停職処分を受けています。性暴力の特性から、こうした事案がすべてではなく、実際にはもっと多くの性暴力が隠れていると思います。もう一つ付け加えると、メディアの多くも起きた出来事の報道に関心を向けても、その後の被害者や加害者には目を向けていません。
わたし達は7年前に学校での教師による性暴力被害の声を上げました。事案そのものは、その時より30年前の出来事です。聞き取りの中で加害教師は「忘れた。わからない」を繰り返し、何らの処分もなく退職しました。わたし達は自分たちでこの教師と面会を繰り返し、彼は事実を認め謝罪をしました。3年間かかりました。当時の行政の対応は、今も一部はそのままですが、良くても「会ってやる、話を聞いてやる」でしたし、多くは「会うつもりはないし、聞くつもりもない」でした。
しかし、ようやく行政の状況は性暴力に対する社会の受け止めの変化もあり少しずつ変わってきています。わたし達に大声を上げた教育委員会とは、現在では月一度程度で連絡会をおこなっていますし、今年の9月に県議会への上程を目指している三重県の性暴力の根絶をめざす条例(仮称)の制定懇話会に当事者代表としてわたし達も参加しています。性暴力は行政が根絶をめざす事案になりました。性暴力の防止や被害者への取り組みは動き出そうとしています。
わたし達が山口達也さんにお願いしたいと思っていることは、被害の実相や被害者の立場に立ってほしいということではありません。もちろんわたし達は、山口達也さんならば被害者への寄り添いのお気持ちはたくさんお持ちだと信じています。今回、わたし達は2018年4月26日の山口達也さんの記者会見を見直しました。それに関わる記事もいくつか読みました。
山口達也さんには加害者として声を上げていただきたいと願っています。
条例の制定懇話会でも話題にもなりましたが、加害者支援は今回の条例の大きな部分になるようです。
まず加害者だった人を次のように捉えています。
わたし達は加害者の社会復帰を阻むものではありません。むしろ性暴力の最終的な解決には欠かせない課題だと考えています。性暴力の被害者のケアと加害者の支援が両立しなければならないとことです。ご存じのことだと思いますが、性暴力からの回復は長い時間がかかり、たいへん困難な問題がたくさんあります。わたし達が関わっている被害女性は性暴力が原因でPTSDを発症し、数十年にわたる治療を受けています。わたし達はその方がこれからも長く苦しみ続けるのではないかと深く危惧し、その心身のケアを行政としてもぜひ考えてほしいと願っています。その方以外の多くの被害者もその家族も深い傷を抱えて、いつまたその傷が口を開くか、地雷を踏むような思いで生活しています。それこそ生活の中で出会った匂いや色が被害者の被害体験に結びつき、症状の悪化することも多々あります。加害者が復帰しようとしている社会がこのような人たちを抱えている社会であることを周りも本人も理解することはとても大事な前提になります。加害者には自分の行為への深い反省はもちろんですが、自分が相手と社会に何をもたらすかを理解し、それらの上に立った自らの行動の制御していくことが必要です。このことは反復性の強い性暴力が二度と繰り返されないことにつながります。加害者だった人への支援とは、こうした内容をふくんだ支援なのでだとわたし達は考えます。
こうした捉えはわたし達の考えです。山口達也さんの思いや状況とは違うところも多いでしょう。だから、わたし達は山口達也さんがこう言うべきだとか、こうするべきだとは言いません。願うことができれば、山口達也さんに加害者だった人としての今とこれまでのさまざまな思い、これからのこと。そして、何よりも社会に願うことを発信してほしい。もちろん桑名市での講演会のどこかだったらうれしいですが、今がむずかしければ、できるときをぜひ考えてほしい。山口さんが加害者だった人として語ることは、多くの性暴力の加害者のこれからにつながることと思います。
山口達也さんの今の思いを性暴力の被害者や加害者、性暴力を自分のこととしていない多くの人たちに語っていただきたい。そうしていただくことが社会の性暴力防止の動きを前に進めていくことになるし、世の中に拡がっている誹謗中傷と偏見を変えていく力になると信じます。山口さんは2018年の会見の時「彼女もつらい思いを1カ月して…。警察の人にも事情を聞かれ、思い出して、苦しむ日々を送っていたと思うと言葉にならない」と謝罪し、涙を見せられました。また「山口になるな」とも言われました。その時の山口達也さんの本心だったと思います。だからこそ 今 声にしてほしいです。
声を聞きつなぐ会はとても小さな会です。しかし、小さいからこそ多くの人たちにつながり、支えられています。だから小さいことは弱いことではないと考えています。もしわたし達にできることがありましたら、ご連絡ください。できることもあるし、できないこともある。またしなければいけないこともあります。わたし達はそう思って取り組みを続けています。
いつかお会いできることがあれば、幸いです。そういうことが可能になる社会になってほしいと心から願っています。
2025年2月3日
声を聴きつなぐ会
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